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大阪高等裁判所 昭和24年(を)3735号 判決

被告人

鵜飼吉一

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

原審及び当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人大川光三の控訴趣意第三点について。

(イ)  本件起訴状には罰条を刑法第二百四十三条と記載し同法第二百三十五条の記載を欠いていることは所論のとおりであるが、公訴事実として窃盗未遂の事実を記載し罪名を窃盗未遂罪としてあるところからみれば窃盗未遂罪として起訴したことはきわめて明白である。尤も刑法第二百三十五条の罰条記載を欠いた以上公判廷においてこれが追加を命ずべきこと勿論であるがこれなくして審理判決しても被告人の権利の防禦に何ら実質的な不利益の認め難い以上、原判決の瑕疵を招来するものではない。

(ロ)  更に原審第一、三、四囘各公判調書及び原判決には事件名をそれぞれ窃盗被告事件と表示してあることは所論のとおりであるが内容を仔細に検討すると、検事の起訴状朗読から始まつた本件審理の実体はすべて窃盗未遂事件として結審判決迄一連の進行過程を辿つていることが一見明瞭であり右窃盗とあるは畢竟単に事件名表示を誤つたに過ぎずけつして実質的に窃盗既遂事件として審理したものでないことが明らかであるから、然らざることを前提とする所論は理由がない。

(弁護人大川光三の控訴趣意第三点)

原判決は審理の請求を受けない事件について判決をした違法か乃至は訴訟手続に法令違反の瑕疵の存する不法がある。

本件起訴状には罪名を窃盗未遂罪とし罰条を刑法第二百四十三条と記載している。右起訴状記載の罰条を以ては罪名を表示する罰条の記載としては利底正当なものではないが仮に起訴の効力に影響がないとしても、窃盗未遂罪として起訴したる事実は明瞭である。

然るに第一囘、第三囘、第四囘各公判調書にはそれぞれ冒頭に「被告人に対する窃盗被告事件について公判を開いた」旨の記載があり、原審判決にも事件の表示に窃盗事件と記載し窃盗未遂被告事件とは記載していない。

即ち原判決は窃盗未遂事件として起訴された事件を窃盗既遂被告事件として審理し、それに基いて判決したことに帰し審理の請求を受けない事件について判決をした違法がある。

仮に起訴事実と同一性を害しないとの理由で審理を遂げ判決を為したものとすれば、訴訟手続に於て刑事訴訟法第三百十二条、同規則第二百九条の定める所に従つて訴因の変更、罰条の追加変更の手続が行われなければならない。然るに之が手続の履践された証左は原審記録には全然存しないのである。

未遂事件を既遂事件として変更することは被告人の防禦に実質的な不利益を生ずることは論を俟たない所であり、延いて判決に影響を及ぼすことも亦自明の理である。

従つて原判決は審理の請求のない事件について判決をした違法がないとすれば、訴因及び罰条の変更についての訴訟手続に法令違反の瑕疵が存する。

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